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長期連載小説4 ~ 容疑者・平(たいら)

            ж  ж


 平幸四郎(たいらこうしろう)は、大あくびをした。神戸では5月の陽気が辺りに

立ちこめ、街全体に潮風が届いて、緑の匂いが充満していた。平は、春の気だるさ

に舌打ちした。

「クソおもんないのう」

 平はひとりごちたが、聞いてくれる人もいなく、独り言は寂しい公園を通り抜けて

行った。塾をサボり、公園に来てみたものの、何もやることがない。せめて友達が

いればよかったのだが、数少ない友人にも見はなされて、最近は一人で行動すること

が多くなった。

 自分の言動が周りと違うのは自覚していた。思春期の少年にありがちな、粗暴で、

空想的で、社会に対する反抗心があるというのもあった。が、自分は他の子と違う。

友人たちとつるんで、悪さをやってもつまらなかった。彼らの欲求不満のはけ口は、

平のストレスの解消には至らなかった。

 中学校に上がってから、学校の勉強にもついていけないことが多くなった。国語の

成績は「2」まで下がり、誰が見ても劣等生の部類まで落ちてしまった。家に帰ると

母親が勉強しろとうるさい。わかっている。わかっているんだ。平は頭をゴツン

ゴツンと叩くと、ベンチに再び横になった。

 友人が離れていったのものわかる。近年の平は明らかにおかしい。ストレス

から奇妙な妄想を口走るようになり、その妄想が一人走りするようになって、

「平って猫を殺してるんやって」

「マジ?きっしょ」

「笑いながら殺してるらしいねん」

「ホンマ……?」

このような噂が平の耳に入るようにすらなってきた。最初は、噂に抵抗し、それを

言っていた人間を殴ったりしていたのだが、それが裏目に出てしまった。平の暴力

が噂の真実性を強調し、本当に動物を虐待しかねない人間だと思われてしまった。

 抵抗も空しい、抵抗しないのも空しい、俺はどうやって生きていけばええんや。

思春期の少年の視界は狭い。この先には自殺、という言葉もちらついていた。


 平が一人ふつふつとフラストレーションをため込んでいるときに、ある男子児童が

公園に遊びに来た。近所のH少年だった。H少年は、見た目には体が大きめの普通の

子どもだったが、知的障害を抱えていた。平に気づくと、

「コウちゃんやん。一人で何してるん?」

 屈託のない笑顔で、Hは話しかけてきた。

「おう。お前こそ一人で何しよるん?」

「墓作るんや。猫の墓やで」

「猫飼うとったん?」

Hは首をブンブンふると、にこやかに返答した。

「近所の猫やん。最近死んどったんやで。コウちゃん知らんの」

平はHの手元を見て、ギョッとした。確かに猫の死体が両の手に抱えられている。

「知らんのう。俺、塾行ったり忙しいんや」


 しばらく黙って見ていたが、Hは無邪気な様子で砂場に穴を掘りだした。

「ちょう待てや。ほんなもんそこに埋めたら、みんなビックリするじゃろ」

「ボク、埋められるところ知らんねん」

 急に強い調子で言ったのにビックリしたのか、Hは涙声で言った。今にも泣き

だしそうだ。

「ち、しゃーないのう。泣くな。ほら、男だったら泣くな。山いくで、タンク山。

 あそこなら墓作るところあるやろ」

 平はH少年を誘って、公園に程近くあるタンク山に連れて行った。
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テーマ:ミステリ
ジャンル:小説・文学

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