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長期連載小説17 ~ 犯行動機2

「さって、今日も調べやで」
 田中は、さも嬉しそうに満面に笑みを浮かべ、三須に振り向いた。田中刑事の誘導
に乗ってか、平は徐々に犯行の全貌を語りはじめていた。三須は内心苦々しく思いな
がら、田中の熟練の“落とし”に多少の感銘を受けていた。三須の眼前では、ほとん
ど語らなかった少年が、田中の前ではよくしゃべる。剛を持って剛を制すとは、この
ことだろう。多くの強情な犯人が、彼の“落とし”にかかるとすぐに自白する。証明
など必要ない。彼の脅しすかしはとても効果的だった。
 三須の心は迷いだらけだった。本当に彼が犯人なのか。語れば語るほど、彼には犯
行が不可能だったということを示しているように感じる。ちょっとした齟齬(そご)を
解消しようと、他の解決方法をうながすと、また大きな齟齬が生じる。まるで供述書
が嘘の上塗りでふくれ上がっているかのようだ。
 休憩所の自動販売機の前で、二人の刑事はスーツの背中を丸めながら、ぼそぼそと
小声で打ち合わせをしていた。犯人の供述をリードし、最終的にこちらに有利な供述
を作り上げることは、そんなに稀なことではない。むしろ、自分からベラベラと犯行
を語る容疑者はいないと言っていい。そのため、現行犯で犯行事実が明らかであった
り、凶器や指紋などの物証があるときは、犯行動機などを警察側が作ることが常態化
しているのだ。しかしながら、この件はあまり大っぴらにできる会話ではない。
 田中は、三須の作り上げた供述書の台本を読みながら、上機嫌で鼻歌を歌っている。
三須は幸せそうな田中を、うらやましげに見つめていた。彼の中ではこのくらいの
疑問は、小さな出来事なのだろう。彼のように、目の前の容疑者を問い詰めることだ
けに熱中できれば、俺も安眠できるのに。三須の頭には、今朝がたの悪夢が繰り返さ
れていた。
 田中の目線が文書のあるところに到達すると、鼻歌をやめ、目線をゆっくりと上に
あげた。
「ホンマにこれでやるねんな」
 田中は三須の瞳をのぞき込むように、しっかりと目を合わせた。三須の心に躊躇い
がないか、覗うようだった。
「ええ。これしかない思います」
「ええねんな」
 最後の念押しをするように田中は呟いた。田中の顔からは、すっかり笑みが消えて
いた。
「ええです」
 気がつくと三須は、田中の視線にしっかり目線を合わせて答えた。


 何度目かの少年との対面に、三須は緊張の面持ちで臨んだ。平はこともなげに、第
二取調室の机の向かい側に座っていた。パイプ椅子に軽く身をもたせ、天井の方を
無造作に見つめていた。その目線の先には、何があるのだろう。三須は上を確認して
みたが、特に何も見当たらなかった。
 彼の目には何も映っていない。憎悪も、悲しみも、喜びも、悔しさも。感情の一切
を表わしていなかった。こんなに虚ろな目をした人間がいるだろうか。彼の14年間
の人生の中でも最も密度の高い体験が、目白押しに訪れた一週間だった。彼でなくて
も、すべての感情を使い果たしてもおかしくなかった。成人男性でも苦痛に耐えかね
る警察の取り調べにも、14歳の少年がよく耐えていた。
「どや、警察にも慣れたかいの」
 どっしりとパイプ椅子に腰を下ろすと、田中は扇子をあおぎながら、少年に問いか
けた。
「お前がちゃっちゃっと吐かんと、家に帰ってお母ちゃんの飯食うのも遠くなるのう。
 どや。もう、ええやろ。おっちゃんも疲れたわ」
 平はゆっくりと肯くと、真剣な目で田中を見つめた。
「刑事さん。僕はもう家に帰れないんか」
「そや。しばらくは無理や」
 少年は、リノリウムの床に目を落とすと、小さなため息を吐いた。
「今日は犯行動機を話してもらうで。ええな」
 うつむいたまま、小さく首を縦に振ると、少年は小さく震えた。
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テーマ:ミステリ
ジャンル:小説・文学

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