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長期連載小説18 ~ 犯行動機3

 何度目かの少年との対面に、三須は緊張の面持ちで臨んだ。平はこともなげに、第
二取調室の机の向かい側に座っていた。パイプ椅子に軽く身をもたせ、天井の方を
無造作に見つめていた。その目線の先には、何があるのだろう。三須は上を確認して
みたが、特に何も見当たらなかった。
 彼の目には何も映っていない。憎悪も、悲しみも、喜びも、悔しさも。感情の一切
を表わしていなかった。こんなに虚ろな目をした人間がいるだろうか。彼の14年間
の人生の中でも最も密度の高い体験が、目白押しに訪れた一週間だった。彼でなくて
も、すべての感情を使い果たしてもおかしくなかった。成人男性でも苦痛に耐えかね
る警察の取り調べにも、14歳の少年がよく耐えていた。
「どや、警察にも慣れたかいの」
 どっしりとパイプ椅子に腰を下ろすと、田中は扇子をあおぎながら、少年に問いか
けた。
「お前がちゃっちゃっと吐かんと、家に帰ってお母ちゃんの飯食うのも遠くなるのう。
 どや。もう、ええやろ。おっちゃんも疲れたわ」
 平はゆっくりと肯くと、真剣な目で田中を見つめた。
「刑事さん。僕はもう家に帰れないんか」
「そや。しばらくは無理や」
 少年は、リノリウムの床に目を落とすと、小さなため息を吐いた。
「今日は犯行動機を話してもらうで。ええな」
 うつむいたまま、小さく首を縦に振ると、少年は小さく震えた。
「何でお前は、いたいけな少年を殺したんや。まだ、小さい男の子を」
「……」
 盛大なため息を吐くと、矢継ぎ早に田中は尋ねた。
「まぁ、しゃべらんでもええわい。あってたらうなずくんやで。まだ小さな子ども
 やから、非力なお前でも殺せる思たんやな」
 平は力なく肯いた。
「お母ちゃんの証言では、お前は力がない、言うことや。そんなお前がHちゃんが子ど
 もといえども、大変やろ。どうして殺したんや。目立ちたかったんか」
 少年は、またも小さく首を縦に振った。
「そうか。目立ちたかったんやな。殺すのは大変やったやろ。途中でやめよう思わな
 かったんか。やめよう思ったけど死んでもうたんか」
 首を横に振ると、少年はかたくなな表情で正面を見据えた。
「ほうかい。殺そう思って、そのまま殺したんやな。間違いあれへんな?
 ほんなら初めから整理しよかい。お前は5月24日土曜日の1時30分ごろ、家を
 出たHくんに偶然出会った。お前は普段からHくんと顔見知りやった。そやな」
「そうです」
「その後、お前はHくんを誘って山へ行った。山は近くのタンク山やな?タンク山の
 チョコレート坂を二人で登ったわけや。お前はHくんを殺すことで頭がいっぱいだ
 ったんやな。そやから、二人でした会話はあんまり覚えてへんのやな」
 ここまでは、前日までの取り調べで判明した事実だった。もちろん、彼が言いよど
んだときは、“供述台本”通りに巧みに誘導したものだった。ここまでは、被疑者が
成人の場合でもよくあることだった。
「ほなら、タンク山に着いてから、お前はHくんをどこに連れて行ったんや。タンク山
 の頂上付近は、土曜日やから、人がいっぱいおったんやろ」
「偶然、人には出会いませんでした」
「ホンマか?警察の捜査では、人がようさんタンク山に登ってた。遊歩道やら林道
 やらな、ようさん人がおったんや。誰とも出会わなかったんやな」
「はい」
「ほなら、ええわい。人に出会わなかったお前は、どこで殺そう思たんや」
「人が来ないとこ、あそこや、どこやったかな。忘れました」
「アンテナ基地か。遺体発見場所やな。あそこなら誰にも発見されない思たんか」
「思いました」
「あそこは、警察も調べたんやがな、錠がかかっとる。ちょうどこれくらいの大きさ
 の南京錠や。径が5mm位の太いやつや。管理人も錠がかかっとるのを確認してい
 るんや。どうやって入ったんや?よじ登ったんか?」
 平は押し黙った。瞳を左右に動かして、何かを探しているようだ。
 田中は、じっとりと平の様子を観察すると、口を開いた。
「思い出してみろ。お前の右手には何が握られてたんや?金ノコやろ。金ノコは何の
 ために持ってたんや。南京錠を切るためやろ?そやな」
 平は首を傾げて、怪訝な表情をしている。田中はしびれを切らしたように叫んだ。
「ほならどうやって入ったんや!」
 びくりと、体を強ばらせると、平は固まった。
「よじ登ったんやない。鍵をこじ開けたんやない。ほなら、フェンスの隙間から入り
 こんだんかい?なめたこといっとったら……」
 田中は拳を握りしめ、ふるふると震わせた。あからさまな威嚇だが、少年には効果
的だった。怯えの色を隠さずに、
「南京錠を切るために、金ノコを使いました」
すぐさまに答えた。
「そうやな。ええ加減にせんと、おっちゃんもしんどいわ。
 南京錠を切ったお前は、Hくんをアンテナ基地に入れた。ほれからHくんに乱暴しよ
 うと手を伸ばした。間違いないな」
 平は瞳を震わせながら、こくりと肯いた。
「相当な悪たれや。お前には人間の感情がないんか?ないんやな。何しろ人間が野菜
 に見えるいうんや。いかれとるんや。
 アンテナ基地にHくんを連れ込んで、どうやって殺そう思たんや。手で首を絞めよ
 うとしたんか?」
 またも平は肯いた。
「そんな簡単に死ななかったやろ。お前の体では、体の大きなHくんの首を絞めるの
 は、難しかったやろな。ナイフを使おう思わなかったんか。いつも自慢げにもっと
 ったんやろ」
「そのときは、持ってへんでした」
「持ってへんかったのやな。ナイフもあれへん、力で抑えつけることもでけへん、
 ほんならどうやって殺そう思たんや」
「覚えていません」
 ダンと握りこぶしを叩きつけると、田中は額に青筋を立てて、怒りを露わにした。
「覚えてへんやあるか!お前の靴やろ!靴ひもを使って、Hくんを絞め殺したんや!
 ええ加減にせんとこのガキャホンマ……」
 田中が掴みかからんばかりに、平に詰め寄ったので、同席していた三須はあわてて
両肩をおさえた。
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テーマ:ミステリ
ジャンル:小説・文学

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