061234567891011121314151617181920212223242526272829303108

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

長期連載小説21 ~ 事件の行方1

   ж  ж  ж  ж  ж  ж  ж  ж  ж  ж

               ж

 病院のベッドで天井を見つめながら、藤田は大あくびをした。社会部記者として
兵庫新聞社に勤めてから、ほとんど休みという休みはなかった。たまたま自動車事故
を起こして、長期入院することになり、この十年で初めての連休気分を味わうことに
なった。休日は泥のように眠り、戦場のような毎日の疲れを癒やした。気づけば十年。
社会部では中堅どころか、古参の部類に入るほど時間が経っていた。
 長い入院生活に入るとすぐに、何もやることがなく、ついつい空想の中に沈むこと
が多くなった。回想録でもつけてみようかと思ったが、せっかくの機会に仕事のこと
を考えるのは億劫だった。そうすると何もやることがない。事件のことを追っている
忙しい時間の方が、幾分かましだった。病院の天井を見つめることにも飽いていた。
 仕事漬けの毎日だった。彼から事件を取ると、もはや何も残っていなかった。骨に
さえしみついた事件記者という職務に、疑問を感じることは今までなかった。これか
らもないと思っていた。それほど、事件を追うことに心酔していた。自分の仕事が、
自分の役割が、社会に大きく求められていると感じられた。
 いったんその緊張が解かれると、自分の役割に疑問が生じることになった。俺がい
なくたって、事件は起こり、それをこうして記事にする人間がいて、新聞の紙面には
日々新しい話題が提供される。自分が追っていた重大事件の扱いも次第に小さくなっ
ていく。こんな空しい仕事があるだろうか。自分と遜色ない仕事をする人間が大勢い
るようならば、その存在意義は……。事件にしか捧げてこなかった十年間が、急に巨
大なハリボテのように感じられて、バカらしくて、無駄だったように思われた。もっ
と趣味やサークル活動に時間を費やしていれば……。

 ちょうど藤田が後悔と格闘しているときに、同僚の鈴木が見舞いにやってきた。
「なんや元気そうやないか」
 藤田の首と左手にに巻かれたギプスに目をやると、鈴木はつまらなそうな顔をして
毒づいた。藤田は軽口で返した。
「元気やで。元気すぎて骨が2、3本折れてもうたわ」
 鈴木はなおもつまらなそうな調子で続ける。
「部内の噂では藤田は再起不能や、言われてんで。ほんで見に来てみたら、ちゃんと
 首がつながっとるやないか」
「アホ。首がとれたら息でけんやないか」
 藤田の軽口につきあわず、鈴木は神妙な面持ちで言った。
「ちゃうで。藤田は重傷やさかい、再起不能やからついでにクビになるんや、言う話
 や。何も聞いてへんの」
 あくまで神妙な顔をしている鈴木を見て、にわかに緊張した藤田は、半身を起こそ
うとしたが、痛みでまたベッドに転がった。ビリビリとした痛みが全身に走る。
「真面目な顔で何いうとんのや。こっちは顔も動かせんちゅうのに」
 昨日は社会部長が見舞いに来た。職務中の怪我ということで、労災がおりるとか、
保険がどうだとか、そんな話をして、藤田の日頃の勤労を形式ばった口調でねぎらっ
て、いつ復帰できるのかなど将来のことも話していった。クビだとか何だとかそう
いった話は一切出なかった。時間にしてほんの20分くらいだが、上司の見舞いは
うれしいものだった。
「そんな首切りは違法やで」
「そんなことはわかっとるわ。お前、ヤッシーに逆らったやろ」
 ヤッシーとは社会部編集室デスクの安田のことである。事故前の記事のことで、い
さかいがあったのは確かだ。記事についてデスクと争うことは日常茶飯事ではない。
各々の記事にプライドを持った記者たちが、自分の記事で食い下がることは、ままあ
ることだった。そのまま口げんかになってしまうこともあった。つまり、よくあるこ
とではないが、そんなに珍しい現象でもないのだ。
「ちょっとした口答えはあった。でも、そんなもん屁みたいなもんやろ」
「ヤッシーはお前を島流しにするってごたいそう立腹らしいで。今のところ局長が
 とりなしているがな、危ないとこや」
「んのゴミデスクが……!」
 鈴木は冷笑を浮かべると、ぺろりと舌を出した。
「まあ、落ち着けやって。ただの噂や噂」
「お前は真面目くさった顔をして、嘘を並べたてるから好かんわ」
 鈴木は普段から冗談にもならない冗談を真面目な顔をしていうところがあった。
本当かどうか調べられないことを、ぽつりと言うのだ。それが冗談と分かるのは、
いつも時間がたってからだった。影でのあだ名はシャレにならないギャグ製造マシー
ンだった。
「お前聞いたか?」
「また噂か。もうお前発信の噂は信じられへん」
スポンサーサイト

テーマ:ミステリ
ジャンル:小説・文学

コメントの投稿

secret

COMMENT

TRACKBACK


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

imikowa88

Author:imikowa88
自作小説みたいなものを
不定期更新します。

保管庫みたいなものなので
あたたかい目で見守ってください。

作者解説を読みたい場合は、
[続きを読む]をクリック、
またはタップしてください。

最新記事

最新コメント

カレンダー

06 | 2018/07 | 08
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

カテゴリ

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

QRコード

QR

アクセスカウンター

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

ブロとも申請フォーム

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。