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長期連載小説26 ~ 真実という名のウソ

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 8月初旬、弁護士の本田は平幸四郎への接見をした。少年事件では、加害少年のプ
ライバシーを守り、未来を保護し、更生を促すために、本人に会える人間はかなり限
定されている。家裁の調査員、少年鑑別所の職員、弁護士等が務めることが多い付添
人などである。事件が家裁に係属されると、少年法の保護の下、ほとんどの情報が外
に漏れることはない。
 弁護団の主要弁護士である本田は、平への接見を求めるのは10度目だったが、今
度の接見ほど緊迫したものは経験したことがなかった。少年はいつも無気力・無表情
で、こちらが何を聞いてもほとんど反応しないということが多かった。こんな状態で
は弁護できん、非行事実もあったのかなかったのかはっきりせんか。本田は何度か
無気力状態の平を叱咤した。少年はそのたび、ちっと舌打ちを一つするだけだった。
 本田は鑑別所の面談室に入り、せわしなくペン先をクルクル回した。本田の頭は、
7月25日に発見された新たな証拠資料のことでいっぱいだった。それは弁護団が膨
大な捜査資料をコピーしているうちに偶然発見されたものだった。それは、兵庫県警
の科学捜査研究所で作られたもので、平の作文の筆跡と酒鬼薔薇聖斗名義の犯行声明
文の筆跡鑑定書だった。その筆跡は同一人物が作成したものとは断じがたいという鑑
定結果だった。
 その他の証拠が乏しい中、唯一といっていい筆跡が一致しないとは、どういうこと
か。筆跡が一致しないということは非行事実もなかったのではないか。どうして彼は
自白したのか。様々な疑問と回答が頭に浮かんでは消え、本田の脳内は混乱を極めた。
「ホンマに君がやったのか?警察に言わされたんと違うか?」
 何度も聞いた質問だが、平は決まってこう答えた。
「僕がやった。紛れもない事実や」
 こうも否認しないということは、彼がやったんやろう。そう考えていた本田は、少
年の言葉に裏切られたのだった。

 細かな貧乏ゆすりを繰り返していると、職員に連れられて面談室に平が入ってきた。
いつも通り、ぶすっとした表情をかえず、本田と目も合わせなかった。ホンマにこの
子がやったんやろうか。本田の頭には、いつもの疑問が去来した。事件の残虐性と、
この少年のあどけなさは少しもリンクしなかった。
「平くん、今日はちょっと聞きたいことがあるんや」
 挨拶もそこそこに、なるべくソフトな声音を用いて、本田は尋ねた。平はちらっと
何や?という視線を向ける。
「君、ホンマはやってへんのやろ?」
 平はイライラした様子を隠さず、怒気を含んだ声で、
「しつっこいの!僕がやったいうてるやん」
 本田は、コピーした資料の一部を取り出しながら続けた。
「ホンマか?ホンマに君がやったんか?これを見てみい」
 平は怒りに身を任せながら、渡された資料に目を通しはじめた。チラチラと目をや
るが、首を傾げるだけで、ほとんど意味をとれていないようだ。
「なんやのこれ。漢字ばっかりでわからんわ」
「君の書いた作文と、犯行声明文な。それの筆跡、つまり文字の形が同じやないいう
 ことや」
 平は眼を剥き、心から叫んだ。
「だまされた!警察にだまされた!」
 少年の興奮状態はおさまらなかった。平は泣き叫び、机を叩き、本田に悪態を吐い
た。とても続けられる状況でなかったので、騒ぎを聞きつけた職員に彼を任せ、本田
はその日の接見を終了させた。
 とてもではないが、彼の弁護は続けられない。本田は早々に鑑別所を辞退しながら
頭を整理していた。
 ――弁護人だって神やないんや。雀の涙ほどの手数料で、弁護できる事件も限られ
とる。わしだって生活かかっとんや。許せ、少年よ。真実よりも大事なんは金や。
 弁護団は少年の両親からはびた一文もらっていない。法律扶助という制度によって
少ない経費や手数料を得ていた。必要経費を引いてしまえば、手元には数千円も残ら
なかった。本田は数百万円を超える弁護料の事件も2つ抱えていた。俺じゃなくても
誰か救ってくれるやろ。本田の心にもそんな甘えがなかったとは言えなかった。

「大人はウソばっかりや!誰がホンマのことを教えてくれるんや!」
 面接室を出るときの平の悲痛な叫びが、生涯本田の耳を離れることはなかった。
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テーマ:ミステリ
ジャンル:小説・文学

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