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スイーツ系中年男子2

               2

 ある夏の暑い昼下がり、美香は死んでしまった。妻と一緒に公園に遊び
に行くときに、左から歩道に突っ込んできた自動車に真正面からぶっつか
った。犯人はあわててバックして、猛スピードで現場を離れていった。歩
行者の目撃証言から、ナンバープレートがわかり、すぐさま犯人の若者は
捕まった。まだ年端もいかない、二十歳そこそこの若者だった。警察に捕
まるとすぐに、謝罪もないまま、自殺してしまった。
 妻は奇跡的に生き残った。ほんの数秒間手を離したすきに自動車が突っ
込んできたらしい。娘は重体で病院に運ばれたが、妻はかすり傷一つ負っ
ていなかった。
 美香が死んでしまったことで、角田の心は大いに荒んだ。誰もが傷つい
た事故で、責任の所在もないまま、彼の悲しみは多方面に及んだ。葬儀が
終わるとすぐに、会社を辞め、四六時中酒を飲んで泣き暮らした。娘を失
ったいま、頑張って働くのもバカらしい。一時的に社会から離れるつもり
だった。慣れないパチンコや競馬に手を染めた。飲み屋で出会った女に手
を出し、手切れ金をせびられたこともあった。どんなことも、どんな方法
をもっても、ぽっかりと空いた心の穴を、埋められるものはなかった。
 加害者の両親を責めた。加害者は成年だった。両親に社会的な責任はな
かった。それでも、頭を下げにやってくる両親に何度も罵声の言葉を浴び
せかけた。どうしてくれる?どうやって償ってくれる?金なんていらない。
娘を返せ。俺の美香を…返せ。角田は怒り、泣き崩れた。加害者の両親は
何度も頭を下げた。土下座をしたこともあった。彼らも自分の息子を失っ
ていたにも関わらず、娘を失った角田に心から謝罪しようという気持ちが
あったのだろう。法要や月命日には必ず顔を出して、謝っていた。
 角田は妻をも責めた。なぜ一緒に出かけてお前だけのこのこ帰ってきた
んだ。どうしてお前が死ななかったんだ。本心からではない。彼は本当に
妻を愛していた。だからこそ妻と自分の愛の結晶が失われたことに悲しん
だのだろう。心にぽっかり穴があくほどに。妻のやることなすことすべて
が腹立たしい。角田が怒り狂っているときに、優しくなだめようとするこ
とも。彼が突然、仕事を放棄してやめて帰ってきたときに、わかったよう
な顔で同情することも。彼が妻を責めるときに、泣きそうな表情でじっと
我慢していることも。
 妻の美沙と離婚した。角田の責め苦に耐え切れず、美香が死んでから一
年後に、美沙は家を出て行った。あとから離婚届が自宅に届いた。何にも
言わずに出ていくところがあいつらしい。角田は部屋の角で黙って泣いた。
すべて失った。本当にすべてを失ってしまった。
 娘の三周忌を迎えたころ、かつての上司の周旋で、現在の会社に就職し
た。上司は角田のことを気にかけていた。有能な部下であったにも関わら
ず、不幸な事故ですべてを失ってしまった彼を、どうにか社会復帰させら
れないかと親心を見せた。事故から三年も経ち、冷静に自分を見つめなお
した彼は、渡りに船とその話に飛びついた。以前よりも収入は減ってしま
ったが、係長職での抜擢で、上司の厚意に報いるためしゃにむに働いた。
すべてを忘れてしまおうとしているかのように。

 角田は美香の墓参りに、必ず彼女の大好きだったスイーツをお供えする
ようにしていた。どんなものが好きかは覚えていたが、一度も食べたこと
はなかった。いつものように月命日にスイーツ屋に立ち寄った。何でもス
タンプがたまって、お好きなスイーツが一品無料になるということだ。甘
いものなんてたくさんいらないな、娘が虫歯になっちまう。墓で眠ってい
る娘のことを心配する自分に少し笑った。
 角田は娘が好きだった苺のタルトを食べてみようと思った。いかにも甘
そうな見た目だったが、親として娘の好きだったものを知りたいという欲
求に駆られた。苺のタルトを二つ購入して、角田は墓に向かった。
 線香の煙をかぎながら、角田は娘の墓の前で一緒に苺のタルトを食べた。
初めてのケーキに、線香の煙に、娘との思い出に、むせ返るような気持ち
で泣きだしてしまったが、タルトは本当においしかった。娘がいつも食べ
たがる気持ちが少しわかった。ゴホッゴホッと咳き込み、目に涙をためな
がら、娘が大好きだったスイーツをすべて食べてみようという気持ちにな
った。角田のスイーツ遍歴はここからはじまる。
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テーマ:自作小説
ジャンル:小説・文学

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